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札幌地方裁判所 昭和27年(行)18号 判決

原告 刈田政吉郎

被告 北海道知事

訴訟代理人 斉藤忠雄 外三名

主文

原告の請求を棄卸する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

〈省略〉

理由

(一)  事実欄記載の原告の請求原因事実中(一)のうち(イ)、(ロ)を除いたその余の(一)の事実はいずれも当事者間に争がない。

(二)  原告は、本件買収計画については適法な公告がされないし、また、原告に適法な買収令書の交付がされなかつた違法があり、したがつて本件買収処分は無効であると主張するけれども、措信しない証人小塩清一の証言以外にはこれを認めるに足りる証拠がなく、かえつて、いずれも成立に争のない乙第三、四号証ならびに証人福居良英の証言を総合すれば、事実欄記載の被告主張の二、(一)の事実を認めることができる。この事実によれば本件買収計画につき適法な公告がされたことはもちろん、本件土地の買収令書は昭和二十四年九月二十六日頃原告に交付されたものといわなくてはならないから、この点に関する原告の主張は採用することができない。

(三)  次に原告は、本件土地はいずれも未墾地ではないこと、仮りに本件土地中未墾地の部分が存在していたとするも買収令書に対象土地が明らかにされていないし、また、対価も農地と未墾地とを区別して計算されていないことを理由として買収処分は無効であると主張するので判断する。本件買収計画公告当時本件土地のうちに農地と認められる部分が存在して小作人が耕作をしていたこと(農地と認められる範囲および小作人の数の点を除く。)、本件土地に排水溝および植林地の存在すること、昭和二十三年一月頃本件土地を月形村立中学校に貸す約束が原告と同校々長との間にされたこと、昭和二十四年十二月八日頃当時の月形村々長狩野盛秀が当時の北海道農地委員会に対し、本件土地は月形村立中学校で理科および農業の教材園、実習地ならびに同校職員のための厚生畑として使用するものであるから買収しないで欲しい旨の願書が提出されたことはいずれも当事者間に争がなく、証人堀治吉、同刈田四郎の各証言、原告本人尋問の結果を総合すれば、明治四十四年前後より昭和十四、五年頃までの間には相当数の人が本件土地を耕作していた事実を認め得るほか原告主張のような事実は一応これを認めることができる(だゞし、月形村立中学校が本件土地を使用していたことを認める証拠はない。)。然しながら、右争いない事実および認定事実からただちに本件土地全部が農地であると断定することはできない。かえつて、成立に争のない乙第一号証、証人奈良坂盛、同福居良英、同伊藤太郎、同斎藤貞治の各証言を総合すれば、本件土地について買収計画がたてられた昭和二十三年十二月当時は本件土地の西北端(乙第一号証の樺戸郡月形村字知来乙四百十二ないし四百十四番地土地のうち黄色をもつて表示された部分。)に斎藤貞治および高畠が、斎藤は約三反歩を、また南側(乙第一号証の樺戸郡月形村字知来乙三枚橋八百四十三番地の三の土地のうち黄色をもつて表示された部分。)に伊藤太郎が水田約一反五畝歩を各耕作していたほか、水田または畑と思われる部分はなく雑草ことに葦が繁つていて相当荒廃していたことを認めることができる。してみると、本件買収計画がたてられていた当時は、本件土地のうち右認定のように斎藤貞治、高畠、伊藤太郎が各耕作していた部分を除くその余の土地は耕作の目的に供される土地ということはできないし、牧野でもないから結局未墾地であるといわざるを得ない。その他右認定を左右するに足りる証拠はない。そうだとすると、農地の部分は合計約三十町一反四畝十八歩の本件土地中西北端三箇所と南側一箇所に分散して存在し、その面積も合計約四反五畝歩余にすぎないし、その余の部分は葦などの雑草が生立していて荒廃し、農地又は牧野と認め得ない状態にあつた場合、当時の月形村農地委員会が右のように僅少な部分の農地をも含めて本件土地全部を未墾地として買収計画をたて、被告が右買収計画にもとずいて本件買収処分をしたからといつてそれは重大かつ明白な違法を犯したものとは考えられない。そして右のように僅少な部分の農地をも含めて本件土地を未墾地としたために本件買収処分が当然無効になるとは解し難いし、また、未墾地と農地の買収対価を区別して計算しなかつたことの一事を捉えて本件買収処分を無効ということはできないから原告のこの点に関する主張は採用できない。

(四)  さらに、原告は本件買収計画はすでに取り消されているから右買収計画を前提とする買収処分は結局無効であると主張する。昭和二十五年二月六日当時の月形村農地委員会が原告に対し、「融雪後現地調査して再検討し、それまで買収計画を保留する。」旨の通知をしたことは被告の認めるところである。そして原告は、右通知は「未既墾地双方の区別を調査し、さらに買収計画をたてる。」という趣旨のものであつて当時の月形村農地委員会作成の公文書であるから、この公文書を原告が受け取ることによつて本件買収計画は取り消されたと主張する。そして、成立に争のない甲第二号証によれば原告の右主張事実に沿うような記載のあることが認められる。然しながら、右通知の交付をもつてただちに買収計画が取り消されたと断定することはできない。而していずれも成立に争のない乙第六号証甲第二号証および証人福居良英、同出羽秀至の各証言を総合すれば本件土地の買収を原告との関係において円満にすすめようとの当時の月形村農地委員会委員らの意向によつて前記のような趣旨の交書が原告に対して交付されたのであつて、本件買収計画を取り消したものではないことを認めることができる。証人小塩清一の証言によつてはいまだ右認定を覆すに足りないし、他に原告の主張を認めるに足りる証拠はないから結局原告の右主張もまた採用することができない。

(五)  右の次第であつて、本件買収処分の無効確認を求める原告の請求はいずれもその理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用については民事訴訟法第八十九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 吉田良正 秋吉稔弘)

目録〈省略〉

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